【山あるきへの招待状】山に魅せられたインドア女子の成長記録

本格山女を諦めた、ただのインドア女のブログ

★番外編★石井スポーツ登山学校校長・天野和明さんにインタビューさせていただきました!

皆さん、こんにちは!山ガールになりたい女子・齋藤です!


登山ガイドの鷲尾さんから「石井スポーツ登山学校校長の天野和明さんにインタビューに行くのですが、良かったら一緒に同行しませんか?お喋りなら齋藤さんの方が得意でしょうし、登山初心者の目線でインタビューしてもらいたいです」とのお話をいただきました!
かなり驚きましたが、滅多にない機会です!
興奮しながらも快諾し、ドキドキワクワクで当日のインタビューに挑みました★

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スパンティーク北西壁登攀

石井スポーツ登山学校校長・天野和明さん

石井スポーツ登山学校とは
石井スポーツ登山学校」は、Mt.石井スポーツが企画・運営を行う登山学校です。
山を愛する全ての方々が、「より安全に」「より快適に」登山を楽しんでいただくために開校されました。講習内容は、これから登山をはじめたい方から、スキルアップを目指したい方まで、幅広く学んでいただけるようカリキュラムが組まれています。

石井スポーツ登山学校校長・天野和明さんプロフィールf:id:InvitationsToPeaks:20190521211845j:plain

石井スポーツの登山学校校長、登山本店所属の山岳ガイド。ローツェ(8,516m)日本人無酸素初登頂ほか、8,000m峰6座に登頂。2008年にはインドヒマラヤ、カランカ(6,932m)北壁をアルパインスタイルで初登攀し、フランスの山岳賞、ピオレドール賞を日本人として初受賞。

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アルパインスタイルとは
通常、山岳地域における岩壁登攀を意味します。
主たる目的が頂上へ登ること、および壁自体をともかく登り切ることにあるので、フリークライミングの技術に加え、人工登攀の技術も必要になります。
多くの場合は2人かそれ以上のパーティが組まれます。
2人の場合、お互いにロープで結ばれた状態で、片方がリードしている間はもう片方がビレイ(確保)する隔時登攀(スタカット)が行われるが、簡単なところや、雪の斜面でビレイの意味がないような場合は、2人が同時に登る「同時登攀」が行われます。

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アルパインライミングのイメージ

「登山界のアカデミー賞」の異名を持つ「ピオレドール賞」を2008年に受賞
「ピオレドール賞」とは、優秀な登山家に贈られる国際的な賞。
天野さんは佐藤裕介さん、一村文隆さんと共にインドヒマラヤ、カランカ(6,932m)北壁をアルパインスタイルで初登攀し、受賞されました。

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ピオレドール賞受賞時の写真

日本が誇る世界的アルパインクライマー・天野和明さんにインタビュー!
登山を始めるきっかけ、ハマったきっかけとは?

今回のインタビュー場所は、Mt.石井スポーツ登山本店(神田神保町)です。

齋藤鷲尾:今回はよろしくお願いします!

天野:はい、よろしくお願いします。

齋藤:私は登山を始めてまだ約半年ほどの初心者で、そもそも登山に興味を持ったきっかけが、登山ガイドの鷲尾さんの影響でした。
鷲尾さんから登山の知識や情報を聴いたり、一緒に歩いて登山を経験する中で感じた実体験で今どんどん登山への興味が広がってきているのですが、天野さんが元々登山を始めようと思ったきっかけは何でしょうか?

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天野:元々僕は山梨の山の近くの出身で、両親が少し山に登るので、小さい頃に何度か山に連れて行かれて、その頃はそれが楽しいわけでは無かったんですけど。。
ある程度物心付いた時から、山登りとか雪山とか、男の子って憧れるじゃないですか^^
アスレチックのジャングルジムや、木登りをする延長で「山登り」をするイメージがあって、それは僕にとって「カッコイイ」ものだったんです。
それで「いつか登山をしたいな」という風に思い始めたのが高校生ぐらいですかね。
山岳部に入って本格的に登山を始めたのは大学生になってからですね。

齋藤:大学生になるまでは、登山部や山岳部には入らなかったのですか?

天野:大学まではそういった部活が通っていた学校に無かったですね。

齋藤:では、大学の山岳部でゼロからのスタート?

天野:そうですね。僕は明治大学の山岳部だったのですが、植村直己さんがOBにいらっしゃって、僕らの世代は、まだ植村さんに憧れて、っていう世代なんです。
僕世代の山に関わっている人達に聞いても、植村さんの本を読んだり、影響を受けた人って多いんですよ。

齋藤:なるほど。そこ(明治大学山岳部)で、本格的に登山にハマった!というかんじですか?

天野:そうですね^^

齋藤:大学の山岳部では、実際どういう事をされていたんですか?

天野:ひたすら地道に荷物を背負って、1年中雪山、夏山、問わず歩いてました。

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明治大学山岳部時代

齋藤:指導して下さる方は顧問講師の方でしたか?

天野:いや、基本的に先輩ですね。
他のスポーツだと、監督がいて、コーチがいて、かなりシステマチックにやっていると思うんですけど、山岳部はどちらかというと武道に近いんですよ。
先輩達がいて、その人達に連れて行かれて、1年間くらいでやっと一人前になる。

鷲尾:大学の山岳部ってそうですよね^^
基本テント泊でしたか?

天野:基本テントです^^
山小屋に泊まった事は1回もなかったです。笑

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山岳部時代のテント泊の写真

齋藤:ええーーー!!
まあそれでも楽しいとか、何か感じる事はありましたか?

天野:いやー・・・笑
何が楽しかったのかは、分からないですね。笑
毎回合宿の度に「辞めたい」と思ってましたし、合宿の前は本当に気分がドーンと下がっちゃうんです。笑

齋藤:「うわー、合宿始まるわー(どよーん)」みたいなかんじですか?笑

天野:不謹慎な話ですけど、何か天変地異が起きないかとか思ってました。笑

齋藤:それぐらい嫌だったんですね。笑
それでも4年間部活を続けられたんですよね?

天野:はい。やっぱり仲間に恵まれましたのが大きかったかもしれないですね。
まあ、僕の同期は1人しかいなかったんですけど。笑

齋藤:(笑)大学卒業後はどうされたんですか?

天野:僕その大学時代は凄く真面目に山登りをしていたので、大学を5年行ったんですね^^

齋藤鷲尾:爆笑

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天野:僕が卒業する時に、山岳部のOB会がパキスタンの山に行く遠征の話があったんですね。
春卒業して、1ヵ月後の5月に出発っていう。
その話を在学中に分かっていたので、「僕もそれに行きます」と手を挙げて。
で、就職活動などはせずに3月に卒業して、5月のパキスタンに・・・ちょうどいいタイミングでしたね。

齋藤:それが天野さんにとって初の海外遠征ですか?

天野:そうですね。それまでは富士山以上に高い山に登った事が無かったですし、海外にも行った事が無かったです。

ピオレドール受賞・世界的クライマーに至るまで

齋藤パキスタンに遠征に行かれたのは、天野さんにとって何か転機になりましたか?

天野:そうですね、転機にはなったと思います。
初めての高所に行くので当然やっぱり不安があるんですよ。
自分がやってきたことが通じるのかどうか。
でも行ってみたら、何とかなった。
それからだんだん自信がついてきましたね。

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初の海外遠征

鷲尾:その時の登山はいわゆる「極地法」ですよね。

天野:そうですね。

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退路が確保されている極地法

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齋藤:そこから、今の「アルパインスタイル」に変わったきっかけは何かあったのでしょうか?

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アルパインスタイル(怖い!!)

天野:そうですね・・・8,000m峰の登山が、パキスタンが初めてで、最初の年に2つ登ることが出来たんですよ。
それで自信を持てて、次の年に8,500mのローツェという山に「無酸素で登ってみたい」と先輩にワガママを言ってですね、登頂出来て。
翌年にアンナプルナっていう山に行ったんです。
そこはたまたま、色んな仲間とか天候とか条件に恵まれて登ることが出来て、そのアンナプルナの山に、南壁っていう難しいルートがあるんですけど、何度か登られているんですよ。
「極地法」っていう、ロープを固定していく登り方で。
ただ、それまで1度だけアンナプルナ南壁が、「アルパインスタイル」で登られているんですね。
結構前で、80年代くらいなんですど。

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アンナプルナ

齋藤:すごい前ですね!

天野:そうなんです。ただ、そのルートを登った人は、僕らが登った2003年まで、1パーティしか登ったことが無くて、それは結構世界的な登山なんです。
でも僕はその時「極地法」でアンナプルナを登りながら、「ここは今の自分の力では、アルパインスタイルで登る事は出来ないけれども、いつか自分に足りないものを埋めていったならば、実現不可能ではないかもしれない」と思ったんですね。
そこから一度高所の登山を置いておいて、もうちょっとクライミング的な要素を増やしていって、今までの高所の経験と、クライミング的な経験が合わさったら、アルパインスタイルでのヒマラヤ登山が出来るのではないか、と思ったんですね。

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アメリカ・ヨセミテでのクライミングレーニン

齋藤:天野さんにとってアルパインスタイル」の魅力って何でしょうか?

天野:魅力は、一言で言うと「冒険性」ですかね。

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鷲尾:当然一人あたりの装備であったりスキルとかは、「極地法」よりも高くないといけませんよね。

天野:そうですね。
結局「極地法」って下からロープを繋げて行くので、キャンプを幾つか出したりとか、退路が確保されているんですよ。何かあったら降りていけばいい。
アルパインスタイル」は一言で言うと縦走ですね。
ピストン登山と縦走の差、みたいなかんじです。

鷲尾:自分より下にはロープは無い。すなわち退路は無い。
上にロープを張っていくだけだし、1日では登れないので、当然ビバーク(野営)ですよね。

天野:そうですね。
登攀用具と生活用具を持って行って、降りるにしても一つ一つ(自分の持っている長さのロープ分)しか降りれない。

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お座りビバーク

齋藤:命の危険がある中で挑戦し続ける事って、天野さんにとって何がモチベーションになるのでしょう?
モチベーションというか、また挑もうと思う意思はどこから湧いてきますか?

天野:そうですね・・・良いか悪いかは別として「喉元過ぎれば熱さを忘れる」というか、その時は楽しいんですよ。
切羽詰った状況というのは、そこだけに集中出来るじゃないですか。だから凄く楽しくて。
集中するべきものが、ほんとに登って生きて帰るために全身全霊をそこに費やすので、跳ね返ってくるものは、物質的なリターンは無いですけど、精神的な充実感はすごく大きいです。
クライマーズ・ハイ」ではないですけど、ある種の脳内麻薬状態というか・・・そういう危ない世界に突っ込んで行くのは良くないですけどね。笑
でも、自分では冷静に考えてるつもりでもちろんやっています。

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齋藤:今まで、天野さんのお仲間であったり、周りの方で亡くなられた方もいらっしゃると思うのですが、そういう経験は天野さんの価値観だったり考え方を変えるきっかけにはなるものですか?

天野:うーん・・・まあ、冷たい言い方をすると「しょうがないな」と思います。
ただ逆に、人間いつか必ず誰でも死ぬじゃないですか。
それが別に「短いから不幸だ」とか「山で死んだから不幸だ」ということは無いと思うんですよ。
逆にその人がそこにそれだけ集中出来るものがあったっていうことは、ある種幸せだし。
ただ周りの人はやっぱり悲しいですよね。特に家族とか。
僕もやっぱり家族はいるので、それを考えると他の人に悲しい思いをさせてはいけないな、とは思うけど、その本人は別に不幸ではないと思います。

鷲尾:納得して好きなことをやって。

天野:ただ難しいのが、僕は「登山学校」で安全とか安心登山をお客様に教えてるんですけど、ご本人が良くても・・・というか本人も別に「死んでも良い」と思って行ってる人はいないと思うんですよ。
だいたいの人が「しょうがないな」とは思うんですけど、正直言って「何でそんな所で死んじゃうの」っていうパターンが多いです。

鷲尾:天野さんと同じ年にピオレドール賞を受賞された谷口けいさんが正にそうですもんね。

天野:だから本人も、本意では無かったと思うんです。その死に方をしたっていう事は。
だからこれからは、やっぱりそういう可能性は減らして行きたいな、と思いますね。

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以前とは違った方に向いてきているベクトル
気になる今後の活動や目標を伺いました★

齋藤:これからも更に何か挑戦したいな、という目標はご自身の中に掲げていらっしゃいますか?

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天野:もちろん自分の中にはあります。
ただそれが、かつての30代前半のような、ああいう登山は出来ないというかんじはするんですよね。
やればかなり頑張れるという自信はあるんですけど(笑)、家庭だったり仕事だったり色々あって、向いているベクトルが以前とは違った方に向いてきている気がします。

齋藤:山を通して多くの経験をされてきた天野さんですが、今後のご自身の活動目標はありますか?

天野:まず、今石井スポーツで登山学校をやって、色んな人に教えていく中で、僕一人だと教えられる人数に限界があるんですよ。
そういう教えられる人を、まずは社内で増やしたいなと思います。
石井スポーツのスタッフで、たくさん山に行って経験を積んで、またそのお客さんに対して影響力を持てるというか、教えられる人を社内で人材育成していきたいです。
自分一人だけでは回らない、「伝えられる人」を増やしたいですね。

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天野:あとは、今年凄く雪が少ないじゃないですか。
多分春も早いし、夏とか秋に雪渓とか水とか、そういった所が凄く影響が出てくるであろうと思われます。

僕らはやっぱり山の業界で生きているので、自然環境に凄く左右されるんですね。
これが温暖化の影響なのかは分からないですけど、このままだと、どんどん自分達のフィールドであり、遊び場が減って行ってしまう。
あとはクライミングでも問題を抱えているエリアがいくつかあるんですよ。
狭い国土で遊び場が減っていってしまうのは、みんな良くないので、少しでも自分の力で貢献出来ればな、と思います。

気になるアレコレ・・簡単な質問もぶつけてみました!

齋藤:天野さんにとって、一言で「山」って何でしょう?

天野:一言で言うと・・・「当たり前のようにそこにあるもの」ですかね。
僕は山で育っているので、特別なものではないです。
なので別に僕は山で死んでも、そんなにそれは特別な事ではない。

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齋藤:好きな日本の山はどこですか?

天野:それはもう、富士山です^^

齋藤:今までで印象的だった山(海外・国内含め)一つだけ挙げるとしたら?

天野:インドのカランカです。(天野さんがピオレドールを受賞された時の山です)
本当に死ぬ思いをして大変だったのもそうなんですけど、結果的にピオレドールを受賞しましたけれど、僕の中では良い登山ではなかったんです。
かなり運の良さが強かったんですよ。
僕らがコントロール出来た部分は少なくて、運の良さが大きくて、結果的にラッキーの連続だったから登れた。
一つでもラッキーではない部分があったら、生きて帰って来れなかったかもしれない。

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2008年にカランカ北壁に登った時の写真

齋藤:「辛い」とか「苦しい」とかっていう時は、どうやってモチベーションを保つんですか?

天野:その登山をしている中では、別にモチベーションは下がらないんですよ。
下がらないし、下がってきたものを無理やり上げようってこともしなくて、逆にそれが後から思うと「もっと冷静に判断したら降りるべきだった」かと思うし、その状況の中では。
「結果的に上手くいった」というのは、登山では、あまり良い登山ではないので。

鷲尾:計画して、スキルも全部磨いて、登るべくして登るのが望ましいですよね。

齋藤:普段使われているザックはどんなのでしょう?

天野:山やシチュエーションによって違いますね。笑
僕はクライミングが多いので、ザックで好きなメーカーはMAMMUT、Black Daiamond、ospreyとかですかね。
元々僕自身、ギアが好きなんですよ。笑
ザックは15個くらいありますね^^

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天野さん愛用のギア!

鷲尾:登山初心者の方が装備を揃える時におすすめのギアやザックなど、アドバイスはありますか?

天野:そうですね・・・本当に初心者の方って、何が自分に合っているのかも分からないと思うんですけれど、今って情報が手に入りやすい分、情報に踊らされている人って多いと思うんですよ。

齋藤鷲尾:はい、多いですね(強く頷く)!

天野:カタログとかネットの情報で「これが良い」とか、比較サイトで「こっちが良い」とか、でもそれがその人にとって良いかどうか分からないし、そのシチュエーションに良いかどうか分からないし、海外と日本でも違うし・・・ある程度経験が出てくると、自分に合う・合わない、要る・要らないも多少分かってくると思うんですけど。
最初は、物選びは失敗も含めて山登りの勉強だと思います。
失敗も含めて学びの授業料、ですかね^^

齋藤:大変勉強になりました。
本日はお忙しい中、お時間ありがとうございました!

鷲尾:光栄で、貴重な時間となりました。
ご多忙な中本当にありがとうござました。

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☆★おまけ★☆

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別日、お仕事でご一緒させていただきました😆❤️